気になる労働裁判例等

気になる裁判例等③~パワハラ(元消防職員の懲戒免職を認容)最高裁

福岡県糸島市の元消防局員(消防本部係長)が部下に対する言動等を理由とする懲戒免職処分を受けたことに対し取り消しと損害賠償を求めた事案。

2025年9月2日最高裁は、処分の取り消しを認容した原審の判断を覆し、懲戒免職処分を認めた
原審は、「訓練やトレーニングとして通常行われる範囲を逸脱したものではあるけれども、逸脱の程度が特段大きいとまではいい難い」、「被上告人が一定の反省の態度を示していること等をも考慮すると、懲戒の中で最も重い免職を選択した本件処分は、重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なもの」等を理由として処分の取り消しを認容していた。

最高裁が処分を認めたその理由として、公務員の懲戒処分の裁量権について、「その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるもの」と、過去の最高裁の判断の枠組みを示しつつ、
被上告人が職場内における優位性を背景として、採用後間もない部下に対し、鉄棒に掛けたロープで身体を縛って懸垂をさせた上で力尽きた後もそのロープを保持して数分間宙づりにして更に懸垂するよう指示したり、熱中症の症状を呈するまで訓練を繰り返させたり、体力の限界のため倒れ込んだことに対するペナルティと称して更に過酷なトレーニングをさせるなどしたものであり、部下に傷害を負わせるものであるか否かにかかわりなく、訓練やトレーニングに係る指示や指導としての範ちゅうを大きく逸脱するものというほかない。また、各発言には、部下に恐怖感や屈辱感を与えたり、その人格を否定したりするもののみならず、その家族をも侮辱したりするものも含まれている。このように、本件各行為は、部下に対する言動として極めて不適切なものであり、長期間、多数回にわたり繰り返されたものであることにも照らせば、その非違の程度は極めて重いというべき」とし、「小隊長等として消防職員を指導すべき立場にある被上告人が、少なくとも10人もの部下に対し、十数年もの長期間、多数回にわたり、上記のような不適切な指導や発言を執拗に繰り返したというものであり、甚だしく職場環境を害し、上告人の消防組織の秩序や規律を著しく乱すものというべき」との判断を示した。

また、林道晴裁判官は次の補足意見を述べている。
・ 「消防職員が、危険と隣合わせの火災等の現場において、その職務を安全、確実かつ迅速に遂行するためには、職員同士の緊密な意思疎通を図ることが必要であると考えられるところ、そのような消防職員の職務の性質に照らしても、本件各行為が消防組織の規律や秩序等に及ぼした悪影響は、特に大きい」
・ 「上告人の消防組織や職場環境に及ぼした悪影響が特に大きいものであることは、その行為の態様が極めて不適切であることのみならず、その期間の長さ行為の回数や被害者の多さ等の諸事情から明らか」

令和 7年 9月 2日 最高裁第三小法廷 判決
事件番号 令6(行ヒ)214号
事件名 懲戒処分取消請求事件